『川のほとりに立つ者は』寺地はるなさん

本の紹介

「当たり前」に埋もれた声を丁寧に掬い上げる

「川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない」

川のほとりから水底の石の数を知ることはできないが、
そこにどんな石があるのか想像することはできます。

この小説は、人を見えるところだけで決めつけるのではなく、
もっと深く想像してみようというメッセージがこめられています。


この本をおすすめしたい方

  • 「ちゃんとしなきゃ」と自分を追い込んでしまう
  • 周囲に対して、つい「できて当たり前」と思ってしまう瞬間がある
  • 他人の背景や事情を、もっと想像できるようになりたい


あらすじ(ネタバレなし)

カフェの店長を務める29歳の原田清瀬。
ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。

松木の部屋を訪れた清瀬は、
彼が隠していたノートを見つけ、
恋人が自分に隠していた秘密を知ることに―。

意識の回復を願いながら清瀬は、
「自分は松木のことをどれだけ知っていたんだろう?」と不安になります。

愛する人の、見えていなかった部分。
「理解している」と思うことの傲慢さ。

この小説は「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、
他者と交わる痛みと、その先の希望を描いた物語です。


心に残った言葉

  • 「過去は変えられないし、性格は急に変えられない。でもこれからの行動なら変えられる」
  • 「誰もが同じことを同じようにできるわけではないのに、「ちゃんと」しているか、していないか、どうして言い切れるのか」
  • 「せっかく助けてやっているのに」と相手の態度を非難することは、最初から手を差し出さないことよりも、ずっと卑しい


感想(読書メモ)

私は人前で話すことが苦手です。
努力してもなかなか上手くなりません。

それを人は、「努力不足」と言うかもしれません。
頑張ればできるはずだと。


「自分ができることは、相手もできて当たり前」
「できないことは、努力すべきだ」
という思いは、
無意識に、誰の心にもあると思います。

しかし、相手の背景にまで目をこらせば、
人の数だけ事情があるという事実に愕然とします。

目が悪ければ、眼鏡をかける。
足を怪我したら、松葉杖を使う。
字が書けないならば、誰かに頼めば良い。

相手の事情を理解せずに、
字の練習を強いることは違います。


この作品のタイトル
「川のほとりに立つ者は、
水底に沈む石の数を知り得ない」

川のほとりから水底の石の数を知ることはできませんが、
そこにどんな石があるのか想像することはできます。

人を見えるところだけで決めつけるのではなく、
もっと深く想像してみようというメッセージがこめられています。

自分の当たり前を、
無意識に人に押し付けていないか。

知らないうちに誰かを傷つけていないか。

正しさだけでは測れないやさしさを、
改めて考えさせられました。


この本が教えてくれること

  • 目に見えるところだけで、人を決めつけてはいけない
  • 自分の当たり前を押し付けることは、正義ではない
  • 想像することが、相手の理解につながる


まとめ

見えている部分だけで
判断してしまうのは簡単だけれど、

その奥には、その人だけの「水底の石」が
静かに沈んでいるのかもしれません。

正しさよりも、思いやりを。
当たり前よりも、想像することを。

読み終えたあと、
人を見るまなざしが変わるような、
そんな一冊です。

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