『凍りのくじら』辻村深月さん

本の紹介

暗闇を照らす、一筋の光ー。

本当はとても寂しくて、
誰よりも人とつながりたい。

大切なものを失った経験があるから、
もう二度とつらい思いをしないように、最初から距離を置こうとする。

そんな哀しみと葛藤の中に、「美しい一筋の光」が差し込む、希望の物語ー。


この本をおすすめしたい方

  • 大切な何かを失った経験がある方
  • それゆえに、大切なものから距離を取ってしまう方
  • 暗さの中に、一筋の光を見たい方


あらすじ(ネタバレなし)


高校2年生、芦沢理帆子―。
誰と話しても、本気で楽しいと思えたことがなかった。
あの光と出会うまでは。

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、
その作品を愛する父が失踪して5年。
病気の母と二人だけの生活を続けている。

本の世界に逃げ込む理帆子は、
周囲と距離を置き、自分の居場所を見つけられずにいた。


ある夏の日、学校の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。

彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、
昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へと進んでしまう……。

物語は、幻想と現実が入り交じり、
「少し・不思議(S・F)」な要素を伴いながら、
喪失と再生、そして希望へと向かう理帆子の内側の旅を描きます。

皆が愛する素敵な「道具」が、
暗闇に一筋の光を照らすとき―。


心に残った言葉

  • 「本当に大切なものがなくなって、どうしようもなく、後悔して、その時、私は耐えることができるだろうか」
  • 「あの時期にこの作品がなかったら、今自分は生きてなかったかもしれない。そう考える瞬間が、僕にはあるよ」
  • 「私は、どこにいても、そこに執着できない。誰のことも、好きじゃない。誰とも繋がれない。なのに、中途半端に人に触れたがって、だからいつも、見苦しいし、生き苦しい」


感想(読書メモ)

この作品は、万人受けする小説ではないかもしれません。

主人公の理帆子は、
どこか冷めていて、周囲を突き放すような態度をとり、
時に人を見下しているようにも見える。
序盤では、彼女に共感できない読者も少なくないと思います。

けれど物語が進むにつれ、
「なぜ彼女はそんなふうになってしまったのか」 が少しずつ解き明かされていきます。

理由を知ると、その不器用さも、
攻撃的に見える言葉の裏側も、
すべてが痛いほど理解できてしまう。
むしろ理帆子という存在が、
じわじわと愛おしくなってくるのです。

大切なものを失った経験がある人なら、
「失うことが怖いから、最初から距離を置こうとする」
そんな気持ちに覚えがあるはずです。

本当は誰よりも寂しくて、
誰よりも人とつながりたい。
その矛盾の中で必死に立っている理帆子の姿は、とても人間的で、胸に刺さりました。

父の失踪、
入院中の母。
元彼の不穏な動き・・。

物語の暗さをそっと照らすのが、
ドラえもんの道具たち。

暗闇を照らす不思議な光が、
理帆子の心の奥にある「凍り」へ、
少しずつ温度を与えていきます。

誰にでも勧められる万能の一冊ではありません。

けれど、この物語が深く刺さる人にとっては、
きっと忘れられない読書体験になる。
そんな特別な力を持った作品だと思います。


この本が教えてくれること

  • 誰にでも必ず「居場所」がある
  • 誰かと繋がりたいときは、縋りついていい
  • うれしい時はとびあがって喜び、悲しければワァワァ泣く。人間は感情の動物だ


まとめ

傷を抱える人にそっと寄り添い、
未来に希望を与えてくれる一冊です。

つらい経験をしてきた人にこそ読んでほしい。

「もう一度、生きたい」という力を与えてくれる。
人の弱さも、美しさも、抱きしめられるような、そんな読書体験でした。

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