辞書は、言葉の海を渡るための舟。
辞書をつくるという、とてつもなく時間のかかる作業。
その地道な営みの中に、人の情熱と、孤独と、
限りない温かさが宿っていることを教えてくれる物語です。
この小説は、言葉を愛する人たちの静かな情熱を描いた、深い余韻が残る一冊です。
この本をおすすめしたい方
- ほっとする物語を読みたい方
- 美しい言葉が好きな方
- 穏やかな感動を味わいたい方
あらすじ(ネタバレなし)
出版社・玄武書房で働く馬締光也(まじめ みつや)は、
周囲とうまくコミュニケーションを取れない不器用な青年。
しかし彼には言葉の微妙な違いを感じ取る鋭い感性があった。
ある日、出版社の辞書編集部にスカウトされ、
新しい辞書『大渡海(だいとかい)』づくりに参加することに。
言葉の意味を調べ、使われ方を探り、
無数の語釈を積み重ねていく日々。
辞書づくりは、途方もなく地道で、終わりの見えない作業。
しかしその作業を通して、馬締は仲間と出会い、
自分の「好き」と真剣に向き合うことになります。
言葉を選ぶことは、世界を見つめ直すこと。
辞書を編むという仕事が、静かに馬締の人生を変えていきます。
心に残った言葉
- 「辞書は、言葉の海を渡る舟だ。ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、想いをだれかに届けるために」
- 「もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」
- 「その言葉を辞書で引いたひとが、心強く感じるかどうかを想像してみろ」
- 「言葉の持つ力。傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、だれかとつながりあうための力」
感想(読書メモ)
言葉は、とても尊いものだと思う。
ひとつの言葉を選ぶために、
どれほどの情熱と時間が注がれているのか。
伝えたいことがうまく言葉にならず、
通じあえないもどかしさを抱えることもある。
それでも私たちは、勇気を出して
不器用な言葉を差し出すしかない。
相手が受け取ってくれることを願いながら。
言葉は時に無力だけれど、
それでも人は言葉でしか気持ちを伝えられない。
完全ではないからこそ、
「どんな言葉を選ぶか」が、その人自身をつくっていくのだと思った。
辞書づくりという静かな現場で、
人が人を理解しようとする姿勢の尊さに触れました。
「好き」に向き合うことは、こんなにも力がある。
地味に見える仕事でも、
誰かの情熱があるからこそ形になり、続いていく。
働くことの意味や、好きでいることの強さを、
そっと教えてくれる物語でした。
そしてやっぱり「好き」は最強。
人の数だけ好きがあって、
その「好き」を見つけるために、
私たちは今日も何かに手を伸ばしているのかもしれません。
私は、本に出会えてよかった。
本がある世界に生まれてよかった。
どうか、この世のすべての人が、
自分の「好き」に出会えますように。
この本が教えてくれること
- 言葉は人の生き方を映し出す
- 言葉があるからこそ、一番大切なものが心に残る
- どんな仕事にも誇りがある
まとめ
静かで、温かくて、誠実な物語。
辞書という舟を編む人たちの姿は、
生きることそのものを丁寧に照らしてくれます。
自分の使う言葉を大切にしたくなる。
そんな優しい余韻の残る一冊です。


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