『ラブカは静かに弓を持つ』安壇美緒さん

本の紹介

傷を抱えた美しき潜入調査員の孤独な闘いが今、始まる。

この小説は、過去の傷を抱えながら生きてきた主人公が、
チェロという楽器を通して、
失われたものと、これから手に入れるべき未来と向き合う物語。

どんなに疲れた人間の心にだって、音楽だけは届く。
心が震える「スパイ×音楽」小説。


この本をおすすめしたい方

  • 過去に置いてきたものがある方
  • 静かで緊張感のある物語が好きな方
  • 一歩を踏み出したいと思っている方


あらすじ(ネタバレなし)

武器はチェロ。
潜入先は音楽教室。
傷を抱えた美しき潜入調査員の孤独な闘いが今、始まる。


橘樹(たちばな・いつき)は、
全日本音楽著作権連盟で働く、
寡黙で目立たない青年。

日々の仕事をこなしながらも、生きている実感が持てない。
その背景には、かつての事件と、
自分だけが背負い続けている秘密があった。

ある日、上司から呼び出され、
音楽教室への潜入調査を命じられる。

目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。

橘は身分を偽り、チェロ教室に通い始める。

師と仲間との出会いが、
奏でる歓びが、
橘の凍っていた心を溶かしだすが、
一方で、法廷に立つ時間が迫り・・。

心が震える「スパイ×音楽」小説。


心に残った言葉

  • 「本人が納得のいく形で生きていくことはとても難しい」
  • 「真意じゃないことを口にしたって、自分の心が死ぬだけだ」
  • 「どんなに疲れた人間の心にだって、音楽だけは届くんです」


感想(読書メモ)

チェロという楽器は、
音が鳴るまでに手間がかかる。

力の入れ方も、身体の角度も、
心の在り方までも試される。

橘樹のぎこちなさと、
少しずつ音が形になっていく過程が、
そのまま主人公の再生に重なりました。

誰にも言えなかった後悔や罪悪感、
「自分は何をしているのか」という虚しさ。

それらがチェロの深い音に呼応するように、
静かにほどけていく描写がとても印象的でした。

物語の緊張感は常に薄い膜のように漂っていて、
橘樹が抱える秘密の存在が読み手を静かに締めつける。

それでも、
音を鳴らすこと、誰かと言葉を交わすこと、
その一つひとつが確かに救いになっていく過程に、
人が生きることのかすかな明るさを感じました。

読み終えたあと、
胸の奥で「まだ言葉にならない音」が
響いているような余韻が残りました。


この本が教えてくれること

  • 音楽は、言葉の届かない場所に触れる
  • 自分にとっての「救いの音」をいつか見つけられる
  • 過去は消えなくても、未来は変えられる

まとめ

大きな声では語れない思い、
音にならない気持ち、
触れられたくない傷や秘密。

そのすべてが、チェロの音色のようにゆっくりと響き合い、
主人公を前へと進ませていきます。

「静かな作品が好き」
「感情の揺れを丁寧に味わいたい」
そんなあなたに強く薦めたい一冊です。

コメント